DePINとAIにおける「誇大広告から現実へ」という進化は、真のイノベーションとは、現実世界の課題を実用的かつ効率的に解決することにあることを示している──そう語るのは、ブリッシュ・キャピタル・マネジメント(Bullish Capital Management)のシルビア・トウ(Sylvia To)氏だ。
〈9層モデルが3つに分割され、それぞれが別々のデバイスで実行される、出典:Transparent Benchmarks – 12 Days of EXO, EXO Labs.〉Exo Labsは、パイプライン並列推論と呼ばれる革新的なソフトウェア・インフラストラクチャを開発した。これは、大規模言語モデル(LLM)を「シャード」に分割し、異なるデバイスが同じネットワークに接続したまま、モデルの別々の箇所を実行できるようにするものだ。この方法には、遅延(レイテンシー)の低減、セキュリティの強化、コスト効率、そして最も重要なプライバシー保護など、さまざまな利点がある。
〈zkSchellingCoinコンセンサスの概要、出典:Blocksense Network – The zk Rollup for Programmable Oracles.〉zkSchellingCoinコンセンサスは、AI推論に検証可能性を加えることにも応用できる。例えば、AIエージェントがUSDコイン(USDC)を最も高い利回りを提供するボールト(運用先)に正しく送金したことを確認するなどだ。
「誇大広告から現実」へ:DePINとAIにおける2025年注目プロジェクト | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)
DePINとAIにおける「誇大広告から現実へ」という進化は、真のイノベーションとは、現実世界の課題を実用的かつ効率的に解決することにあることを示している──そう語るのは、ブリッシュ・キャピタル・マネジメント(Bullish Capital Management)のシルビア・トウ(Sylvia To)氏だ。
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DePIN:分散型物理インフラネットワーク
DePINプロジェクトは理論上、暗号資産(仮想通貨)にリアルなユーティリティを提供する試みだ。しかし、現実世界の問題を真に解決し、既存企業を破壊するほどの合理的なビジネスモデルを持ち、かつ簡単に真似できないものはほとんどない。多くは、問題を探しているソリューションに過ぎない。
だが注目すべき例外の1つが、フライト追跡ネットワーク「ウィングビッツ(Wingbits)」だ。その理由は、Web2の課題をWeb3のインセンティブで解決しようとしているからだ。ロンドン発ニューヨーク行きのBA117便のようなフライトを追跡(トラッキング)した経験がある人なら、FlightAwareやFlightradarなどのウェブサイトを利用したことがあるだろう。
だが設備投資として、多額のインフラ費用やハードウェア費用が計上されているわけではない。なぜなら「ADS-B受信機」と呼ばれるハードウェアは、アンテナと超小型コンピューター「ラズベリーパイ(Raspberry Pi)」で構成され、航空愛好家たちが購入し、設定できるからだ。愛好家たちは見返りをほとんど期待せず、お気に入りのフライトトラッキングプラットフォームの無料サブスクリプション(無料利用権)を受けるだけというケースが多い。
課題は、愛好家たちがデータ品質を最大限に向上させるインセンティブを持っていないことだ。プラスのインセンティブがなければ、ADS-B受信機は不適切な場所に設置されてしまう。例えば、リビングルームの隅に設置されたり、人口密度の高い都市部に過剰に供給されて、地方のカバーが不十分なものになってしまう。
Wingbitsは、従来の11分の1のステーション(ハードウェア)数で、最大規模のネットワークの75%をカバーすることに成功した。この高い効率性と、今後4000以上を見込むステーション展開により、既存のフライトトラッキングネットワークを大幅に凌駕し、ユーザーに高品質なデータを提供することが期待されている。
暗号資産(仮想通貨)のインセンティブを活用した、一般の人々が理解できる現実世界でのユースケースを示せるようになったため、今後はこのコンセプトを家族に簡単に説明できそうだ。
暗号資産 ✕ AI
市場サイクルと同様に、コンピューティングの需要にもピークとボトムがある。GPUは高価になり、供給の制約によって価格はさらに上昇する。
一般消費者が使っているコンピューターの「空き時間」を活用するというコンセプトは新しいものではないが、複数のコンピューター間の同期についての課題を解決する点は先進的だ。
エクソ・ラボ(Exo Labs)は、エッジコンピューティングにおけるブレイクスルーを達成した先進的なプロジェクトで、一般コンシューマー向けのデバイス、例えば、MacBookなどでAIモデルを実行することができる。つまり、機密データはユーザーの管理下にあり、クラウドを使ったストレージや処理に伴うリスクを軽減できる。
プライバシーでは、Bagel AIというプロジェクトにも注目だ。同プロジェクトは、プライバシーを保護しながらLLMを微調整するZKLoRA(ゼロ知識低ランク適応:Zero-Knowledge Low-Rank Adaptation)を開発した。これがもたらす革新的な変化は、法務サービス、ヘルスケア、金融などの業界に特化したモデルの作成が可能になり、機密情報の漏洩リスクを負うことなく、機密データを強化学習に利用できるようになることだ。
プライバシー保護は注目の話題だが、ほとんどのLLMにとってより大きな課題はハルシネーションだ。これは、AIがあたかも事実のように、虚偽または誤解を招く情報を提示することを指す。
あるポートフォリオマネージャーはかつて私に対してこう述べた。「知恵とは、対立する視点を統合し、2つの極端な意見の間の微妙な真実を明らかにすることにある」と。
Blocksenseは、zkSchellingCoinコンセンサスと呼ばれる独自のアプローチを開発したプロジェクトだ。この手法は、複数のソース(例えば、異なるLLM)からの主観的な真実を重ね合わせ、単一かつ共通の真実に到達することを目的としている。例えば、ChatGPT、Claude、Grok、Llamaで同じクエリを実行することを想像してほしい。1つのモデルが誤った出力をしたとしても、4つのモデルがすべて同じ結果を生成する可能性は統計的に低い。
AIへの信頼は、そうした行動を第三者が検証できる仕組みが加わることで、大幅に強化される。もし、この検証レイヤーをコストやレイテンシーに影響を与えずに実現できれば、現実世界のユースケースにおいて大きなブレイクするーとなる可能性がある。
DePINとAIにおける「誇大広告から現実へ」という進化は、真のイノベーションとは、現実世界の課題を実用的かつ効率的に解決することにあることを示している。WingbitsやExo Labsのようなプロジェクトは、ブロックチェーンとAIがいかに有意義なインパクトを生み出すことができるかを示している。
つまり、戦略的なインセンティブによってフライトトラッキングに革命をもたらしたり、消費者向けデバイスのパワーを最大限に活用し、安全で費用対効果の高いコンピューティングを実現できる。また、プライバシーを重視したAIを実現するZKLoRAや検証可能な真実を実現するzkSchellingCoinなどの進歩により、こうした新興テクノロジーは重要な課題に対処し、より分散化され、効率的で、信頼性が検証された未来を切り拓く。